佐沼屋呉服店

2024.09.29

こんにちは、佐沼屋です。9月に入り、少しずつ秋の気配を感じる季節になりました。着物の世界では、季節ごとにさまざまな柄が楽しめるのが魅力です。季節に合わせた柄選びは、着物初心者にとって少し難しいかもしれませんが、それぞれの柄には深い意味やストーリーが込められています。今回は特に秋冬の柄を中心に、四季折々の着物の柄とその選び方についてご紹介します。季節感を大切にしながら、自分らしい装いを見つけるお手伝いができたら幸いです。


最初に秋限定の柄をお伝えし、その後、通年着られる柄もお伝えしますので、どうぞ最後までお読みください。


残暑の中から9月初旬にぴったりの秋の柄としては、七草のキキョウ、ススキ、なでしこ、菊、ぶどう、紅葉、吹き寄せ、ざくろ、萩などが挙げられます。さらにお月見や鈴虫、野菜をモチーフにしたデザインも秋らしさを引き立てます。秋の柄は、夏の終わりにも「秋の涼しさを呼ぶ」として人気が高く、季節を先取りする着物の基本理念にも合致しています。そのため、6月後半頃から着用して良いでしょう。


少し季節が進んだら、冬の柄を選んでみましょう。冬に適した柄には、松、椿、南天、竹などがあります。松は縁起の良い象徴としてお祝い事にもよく用いられ、常緑の葉が不老長寿を表します。椿は早咲きから遅咲きまであり、寒くなり始めた頃から3月初旬まで着用することが可能です。梅も同様に、年明けから本物の梅が咲き始める頃まで長く楽しめる柄です。


春の柄には、桜、藤、牡丹、杜若(かきつばた)、ショウブなどが人気です。桜は日本を代表する花の一つで、花のみが描かれている場合は季節を問わず着用できます。藤は多産を象徴し、牡丹は富貴を意味します。これらの柄はおめでたいデザインとしても知られており、写実的でなければ通年で楽しむことができます。


夏の柄としては、あじさい、うり、柳、鉄線、朝顔などがあります。夏は特に涼しさを重視するため、寒色系や薄色の色合いが選ばれます。季節を先取りして秋草を取り入れたデザインも人気があります。


 


通年で着られる柄についても触れておきます。着物の中には季節を問わず、一年を通して着用できる柄があります。


〇吉祥文様

縁起の良い伝統的な文様で、松竹梅、鶴、亀、鳳凰など、動植物をモチーフにしたものです。主に礼装用の柄として使われ、花嫁衣裳や留袖、訪問着、振袖などに広く用いられています。


〇有職文様

平安時代に皇族や公家の衣装や調度品の文様として使われ始めた柄で、七宝、亀甲、立涌、青海波、向い蝶などが代表的です。


〇植物

季節を問わず着用できる植物柄には、桜(花だけが描かれているもの)、牡丹(他の柄と一緒に抽象的に描かれているもの)があります。また、かぼちゃ、へちま、きゅうり、ひょうたん、すいか、冬瓜などのウリ科植物や、抽象的に描かれた柳や紅葉、菊、ざくろ、他の柄と組み合わせて抽象的に描かれた松、梅、椿なども通年で楽しめます。


〇動物

抽象的に描かれた千鳥、孔雀、スズメ、トンボ、唐獅子、ツバメ、金魚、鷲、蛙などの動物柄も、季節に関係なく着用できます。


〇幾何学模様

市松、格子、水玉、縞、卍、つなぎ、三角、麻の葉などの幾何学模様も、通年で着られる柄として人気です。


〇器物

鈴、扇、ひょうたん、貝合わせ、貝桶、宝尽くし、楽器などをモチーフにした柄も、一年を通して着用可能です。


これらの柄は、季節に縛られずに自由に楽しむことができるので、着物初心者の方にもおすすめです。


 


また、着物の柄には、他にもいくつか種類があります。


〇名物裂(めいぶつぎれ)文様

これは、インドの更紗や東南アジアの染色布からインスピレーションを受けた柄です。名物裂という名前は、千利休などの著名な茶人たちが、特別な道具を包むために使ったことから由来しています。代表的な柄には、荒磯(あらいそ)、有栖川(ありすがわ)、鶏頭(けいとう)などがあります。


〇自然の柄

雪、稲妻、星、霞、雨、雲、水など、自然現象をモチーフにした柄です。デザイン性の高いものは一年中着ることができますが、写実的に描かれている場合は、季節によって着る時期が決まります。例えば、雪は冬、稲妻は夏、星は秋、霞は春、雨や水は夏の柄とされています。


〇風景の柄

海や浜辺の風景を描いた「海賦(かいぶ)」と呼ばれるデザインが代表的で、波、貝、水鳥、松などが使われます。また、遠くの山や茶屋、橋などをモチーフにした柄もあります。


〇物語の柄

有名な物語を題材にした柄もあります。例えば、『源氏物語』や源氏香、流水や橋、かきつばたが描かれた「八橋(やつはし)」などです。八橋の柄は、特に5月から6月初旬に着るのが適しています。


〇正倉院文様

これは、奈良の東大寺にある正倉院に納められた宝物に由来する柄です。花喰鳥(はなくいどり)、ぶどう唐草、宝相華(ほうそうげ)などがあります。


〇光琳文様

江戸時代の画家、尾形光琳の画風をもとにした柄で、光琳梅、松、菊、紅葉、水、かきつばたなどがあります。大胆なデザインと特徴的な線使いが特徴で、江戸時代中期に大流行しました。


 


このように、着物の柄には季節に合わせたものと一年中楽しめるものがあります。季節に応じた柄を選ぶ際には「季節を先取りする」ことが大切です。着物の世界では、季節を少し早めに感じさせる柄をまとうことが“粋”とされていますので、ぜひ覚えておいてください。


通年で着られる柄は、着るシーンや目的に合わせて選ぶのが良いでしょう。たとえば、礼装には格式のある柄を選び、カジュアルな場面ではシンプルで軽やかな柄を楽しんでみてください。


皆さんも、季節やシーンに合った柄を選んで、着物をおしゃれに着こなしてみてくださいね。