佐沼屋呉服店

今回は、日本の三大紬のひとつと言われる牛首紬についてご紹介させていただきます。


 


〇産地


「牛首紬」は、その誕生の地が石川県の旧牛首村、今の白峰村であるとされています。


白峰は、雄大な霊峰白山のふもとに位置する典型的な山村で、冬には積雪が3~4メートルにもおよぶ厳しい寒冷地帯です。「出作り」と呼ばれる農業形態が根付いたこの地では、春になると家族全員が山奥の小屋に移り住み、農作業を開始します。そして、冬が訪れる前にはそこで収穫したものを持ってふもとの家に戻るという独自の生活様式が存在します。この中で、養蚕が特に重要な収入源となり、女性たちは冬の間、雪に閉ざされた中で糸を紡ぎ、織物を織り上げました。その中で生まれたのが、牛首紬です。牛首紬は、山村特有の厳しい生活と豊かな自然が調和し、山の文化の中で生まれた芸術品なのです。


 


〇歴史


牛首紬の起源は、1159年(保元4年)の平治の乱の際、戦いに敗れた源氏の落人が牛首村に逃れ、同行していたその妻が機織の技を村人に伝授したのが始まりと言われています。


牛首紬は江戸時代には既に全国に出回っており、さらに明治中期から昭和初期までその生産は拡大の一途をたどりますが、昭和10年前後になると第二次世界大戦などの影響により、本格的な生産は停滞してしまいました。


しかし、昭和38年に白峰の地場産業振興のための動きが起こり、桑畑の造成や養蚕の取り組みが行われ、牛首紬を生産する工場の稼働が再開されました。これにより伝統の技法が守り継がれ、牛首紬は再び日本の美を象徴する存在となりました。


 


〇特徴


牛首紬の最大の特徴は、釘に引っかかっても釘の方が抜けてしまうほど堅牢な生地であることからです。“釘抜き紬”と言われるほどです。緯糸に玉繭と言われる特殊な糸を使っているためです。糸を縦横に織り交ぜ、空気を含ませることによって、まるで牛の首のような柔軟性と強さ、弾力を同時に表現する技法が用いられます。保温、吸湿、通気性に富み、軽くて着やすい仕上がりになっています。


また、美しい光沢があることも多くの人を惹きつける魅力で、製品としては伝統的な柄である藍染めのカツオ縞の着物をはじめ、訪問着や帯、和装小物などが作られています。


 


〇まとめ


牛首紬は、1979年に石川県の無形文化財に、そして1988年に国の伝統工芸に指定されている日本の美の奥深さを垣間見ることができる特別な着物です。白峰村の自然と職人の手仕事が紡ぎだす風景が、牛首紬の美しさと風格を形作っています。柔らかな風合いと緻密な技術が融合した牛首紬は、カジュアルからセミフォーマルまで幅広く着ることができるようになりました。近年ではパリコレクションでも採用され、海外でも注目されるようになっています。日本の伝統と現代の洗練が調和した優雅な一着として、これからも多くの人に愛され続けることでしょう。