こんにちは、佐沼屋です。毎日寒い日が続いていますね。暖かな装いが楽しい季節です。お着物では、この時期には袷(あわせ)が大活躍します。中でも「しょうざん生紬(なまつむぎ)」は、その自然な風合いと柔らかな着心地で、帯としてもオールシーズン使えるのが魅力。初心者の方には、「しょうざん生紬はきらびやかさよりも自然な美しさを楽しむ着物」と覚えて頂くとわかりやすいかもしれません。カジュアルなお出かけや普段使いにも重宝するので、着物初心者の方にも取り入れやすい織物です。今回はこのしょうざん生紬について、その特徴や魅力をご紹介します。
しょうざん生紬は、玉繭と呼ばれる特別な繭から作られる、自然な風合いと柔らかな質感が魅力の着物生地です。玉繭とは2匹の蚕が一緒に作った繭で、糸が絡み合い繊維が不均一になるため生糸の原料として機械にかけることができず、通常は弾かれてしまいます。純粋な絹なのに、そうした理由から一般の絹織物には使われない玉繭ですが、この通常の絹糸とは異なる不均一な繊維がしょうざん生紬ならではの独特な質感を生み出します。また、しっかりとした織りで丈夫なためカジュアルなシーンで気軽に楽しむことができ、初心者にも扱いやすい着物として人気があります。
しょうざん生紬の糸づくりには、「座繰り(ざぐり)」と呼ばれる昔ながらの方法が使われています。座繰りとは、手作業で繭から糸を引き出して紡ぐ技術のことです。この手作業ならではの特徴が、しょうざん生紬の生地に独特の風合いを与えます。座繰りでは玉繭という2匹の蚕が一緒に作った繭から糸を紡ぐため、糸の太さにムラが生まれやすくなります。このムラが「節」と呼ばれる小さな凸凹を作り出し、しょうざん生紬特有の素朴で自然な表情を生み出します。この節のある糸は、機械では再現できない手作業の温かみを感じさせます。また、こうした節があることで生地全体にナチュラルな質感が加わり、光沢を抑えた落ち着いた雰囲気が生まれます。これが「気取らずに楽しめる着物」として生紬が愛される理由のひとつと言われています。
さらに、しょうざん生紬の糸作りでは「精練(せいれん)」と呼ばれる工程がとても重要です。精練とは絹糸に含まれる「セリシン」という成分を取り除く作業のことで、絹を柔らかくし、光沢を引き出すためにおこなわれます。しょうざん生紬の場合、この精練をあえて完全におこなわないのが特徴です。通常の絹糸ではセリシンをしっかり落とすことでツルツルとした滑らかな質感と強い光沢を出しますが、しょうざん生紬ではセリシンを少し残すことで柔らかさの中に程よいハリを持たせ、マットで落ち着いた質感を生み出しています。
最後になりますが、しょうざん生紬の名前の由来には松山政雄さんの想いが込められています。松山さんは大正5年(1916年)に京都で生まれ、戦後の復興期に織物事業を立ち上げた先駆者です。彼は戦後いち早くウール御召を開発し、軽やかで扱いやすい新しい織物として世に広め、多くの人々に愛用されるきっかけを作りました。この功績は、伝統的な織物の枠を超えた挑戦として高く評価されています。
「しょうざん」という名前は、松山さんの名字「松山」を由来としており、自身の名前を冠することで品質への自信と織物への誇りを表しています。松山さんは、自然素材を生かした高品質な織物を生み出すことを目指し、現代の生活にも調和する着物づくりを追求しました。その結果、しょうざん生紬は自然の風合いと職人技術が融合した独特の魅力を持つ織物として、多くの人々に支持されています。
いかがでしたか?しょうざん生紬は着物初心者にとって自然素材の美しさや職人技術の魅力に触れる絶好の入り口となる織物です。その温かみのある風合いは、日常生活に寄り添いながらも着る人を特別な気持ちにしてくれます。また、しょうざん生紬の糸作りや織りの背景には手仕事に対する深い敬意と自然を大切にする想いが込められています。しょうざん生紬を通じて自分らしい着物の楽しみ方を見つけるきっかけになれば幸いです。