佐沼屋呉服店

2024.03.5

こんにちは、佐沼屋です。皆さんは根付を着物のコーディネートに活用されていますか?最近は着物に合わせるアクセサリーも幅が広がり、型にはまらないおしゃれが楽しめるようになりました。そこで、今回はあえて着物のおしゃれアイテムとして歴史のある根付について皆さんに知って頂きたく、お話させて頂きます。


根付の歴史は古く、室町時代までさかのぼると言われています。一般に根付が普及し始めたのは江戸時代に入ってからですが、当時は今のように着物をおしゃれに見せるためではなく、根付には実用的な用途がありました。当時の人たちは巾着や印篭の紐に根付を結び、帯の下から通して落ちないように挟むことでちょっとした小物を持ち歩いていました。根付は、巾着や印篭を洋服のポケットのように使用するための道具として使われていて、根付という名称も「根元に結び付ける」という意味があります。


江戸時代で主に男性が使用していた根付は、時代の流れと共に装飾品となり、干支や七福神のような縁起物をぶら下げることで魔除けのお守りとして身に付けられるようになりました。江戸時代後期に入ると、女性も装飾品として着物に合わせて根付を使用するようになり、根付の人気は更に高まりました。


明治時代に入ると、根付はその細工や彫刻の美しさから海外で高い評価を得るようになりました。根付は、手に取った時に「360度どの角度から見ても、作品として完成していなければならない」という厳しい制約がありました。この制約の中で、根付師と呼ばれる職人たちは工夫を凝らして美術品ともいえる根付を作り上げました。そして、その繊細な根付の装飾技術が当時日本を訪れた欧米人たちの目に留まりました。日本政府は、根付を日本の美術工芸品として海外へ輸出することを奨励していたため、根付は海外の人たちから伝統的な美術品として高く評価されるようになりました。


一方で日本国内では、和服から洋服へと人々の服装が変化したことで根付の実用的用途が減り、それと共に装飾品としての人気も低下してしまいました。日本での根付の人気は、時が流れて平成になり、再びアクセサリーとして注目されるまで長い間低迷を続けていました。現在では女性が着物を着る際の和装アクセサリーのひとつとしてコーディネートに取り入れられています。特に普段使いのカジュアルな着物や帯周りを華やかに見せるアイテムとして重宝されています。


根付を付ける時は、ヘラ状の根付プレートに根付を結び、プレート部分を帯の間に差し込んで使用します。樹脂製や木製などの種類がありますが、和装小物を扱っているお店や手芸店を始め、ネットショップでも購入できます。何にでも合わせ易いシンプルなタイプを選ばれたり、手持ちの根付に合わせてプレートにこだわってみるのもひとつの楽しみかもしれません。


最近では根付の種類も豊富になり、キャラクターものから食品サンプルのようなユニークなものなど選択肢は広くなりましたが、カール・シュヴァルツ氏の『根付の題材』という著書によると、薬入れとして用いられていた印篭には、根付に不老長寿のモチーフが多く、武家の間では中国や日本の古典にちなんだ貴族趣味のモチーフもみられたといいます。他にも鼠、牛、虎、馬、猿、犬のような十二支からヒントを得たものや、獅子や麒麟、鳳凰などの架空の生き物、そして植物などそのパターン400種類以上に上るそうです。日本人が昔から階級やシーンに合わせた粋なおしゃれを楽しんでいたことがわかります。


根付はあくまで帯周りを飾るアクセサリーなので、フォーマルな場面では使用を控えるのが一般的です。また、お茶席でも根付はお茶の道具を傷つける可能性があるため指輪や腕時計同様、使用できません。礼装の時の使用もNGです。そのかわり、紬や小紋などカジュアルなお出かけの際に着物に合わせて上手に根付を取り入れると、とても粋な印象になるので、ぜひチャレンジしてみてください。根付初心者の方は、柄のないシンプルな帯に根付を合わせることから始めてもいいかもしれません。根付がよいアクセントになりますよ。慣れてきたら、着物の色や柄を根付と合わせたり、季節やシーンに合わせてみるのもいいかもしれません。帯周りでゆらゆらと可愛らしく揺れる根付は、さり気ないながらに着る人と、それを見る人の目を楽しませてくれます。あなたの個性を生かしたアレンジを楽しんでください。